信越トレイル山のトイレ問題
問題の背景
信越トレイルは、長野県と新潟県の県境にある関田山脈の稜線を中心とした、全長の110kmの国内ロングトレイルの草分け的な存在です。ジャーナリストであり、バックパッカーでもある、日本のロングトレイルの第一人者、故加藤則芳(かとう のりよし)氏により設計され、彼が踏破した3500kmのアパラチアトレイルの思想を色濃く反映しています。アパラチアトレイルは、LNTにとっても誕生の地であり、トレイルヘッドでのLNTワークショップや、トレイル上のサインボードなどでLNTを見る機会に溢れています。このようなもともとの強い親和性もあり、信越トレイルの運営団体である、 「信越トレイルクラブ」は、LNTJの設立前である2019年にはすでにLNTトレーナーコース(現レベル1インストラクターコース)を、登録ガイドに対して実施するなど早くからの取り組みがなされています。
このような背景の中、2023年に、一部のガイドにより、携帯トイレブースの設置が計画され、クラブや地域関係者との間で、にわかに携帯トイレに関する問題が浮上しました。携帯トイレブースの設置には、設置場所の地域住民の理解、使用後の携帯トイレの回収のシステム、継続的な管理、景観など、さまざまな課題が伴います。また、トレイルの開設以来、ビジターからは、公共トイレの設置の要望が絶えず、中にはトイレを理由にトレイルアウトするハイカーも顕在していることが明らかとなりました。アメリカのロングトレイルでは、トレイルヘッドで排泄物の処理の教育が徹底され、自然分解による処理が常識となっていますが、国内のロングトレイルでは、ハイカーがそれらの教育を受けずにトレイルインしている現状も明らかとなりました。現在、信越トレイルでは、ハイカーのし尿による問題が健在化しているわけではありませんが、少なくともし尿の自然分解の知識と技術、装備を持たずにトレイルインしているハイカーがいることは確かなことです。


トレイルシンポジウムにおける「山のトイレ」の啓発
信越トレイルだけではなく、ロングトレイル関係者に対する、排泄物の自然分解、通称キャットホールの啓発に向け、2023年11月に、長野県飯山市文化交流館なちゅらにて開催された、「全国トレイルメンテナンスシンポジウム」にLNTブースを出展し、キャットホールのプロモーションを行いました。イベントには、全国からロングトレイルの関係者、愛好者約200名が参加し、キャットホールの情報を届けることができました。


ロングトレイル関係者を対象とした山のトイレワークショップ
同全国トレイルメンテナンスシンポジウム後に、会場を信越トレイルクラブの活動拠点である、「なべくら高原森の家」に移動し、キャットホールのワークショップを、実際のブナの森の中で実践しました。全国のロングトレイル関係者約40名が参加し、これまで漠然と理解していた概念について、具体的な知識とエビデンスを理解し、環境に対して問題があるといった誤った認識を解くことができました。


ガイドブックに山のトイレのテクニックを掲載
信越トレイルの公式ガイドブックに、キャットホールの解説が、イラスト付きで掲載されました。これまで排泄物の自然分解は、タブー視されており、ほとんどのガイドブックが吹き込んだ解説を避けてきました。その結果、多くの山域で、誤った排泄物、トイレットペーパーが残置が起こり、山の中に排泄物を残すことは、いっそうマイナスのイメージを植え付けることとなりました。こうした背景から、このガイドブックがキャットホールのテクニックに具体的に踏み込んだことは、大変画期的であり、価値のある情報であると言えます。


北信越拠点センターへ
これらの一連の連携事業の成果から、地域へのLNTの普及と、LNT指導者のネットワークの拠点機能を目指し、北信越エリアの拠点センターとして、信越トレイルクラブの活動拠点である、「なべくら高原森の家」と、2024年6月18日に連携協定を締結しました。長野県北信エリアは、LNTの導入が早くから盛んで、多くのLNT指導者が在籍するエリアです。今後は、長野県をから、北陸地方へのLNTの発信が期待されます。
2025年LNTレベル2インストラクター開催
スポットライトプログラムにより、より強固となったLNTJとの連携体制により、2025年のLNTレベル2インストラクターコースを、拠点センターであるなべくら高原森の家で11月開催することとなりました。日本全国から有能なレベル1インストラクターが集い、5日間を通じて、なべくら高原森の家や、周辺の信越トレイルでのハイキングを通じて、実践的なLNTの教育方法を学びました。

