LNT原則4 消えた星の砂

世界はとてもめずらしい自然、ときにはとても愛らしい自然であふれています。

星の形をした砂もそのうちの一つで、世界に何箇所か、星の形をした砂で埋めつくされた美しいビーチがあります。この星の砂の正体は、原生生物である有孔虫の殻で、日本で多くみられる南西諸島でいえば、大陸から切り離された150万年前から体積したのもです。

1993年、私はとあるそのビーチからシーカヤックをこぎ出し、島をめぐる旅をしました。その時は、手ですくう砂の全てがそれかのように、ビーチは星の砂で埋めつくされていた感動を今でも鮮明に記憶しています。

時が経ち、2019年に全く同じビーチに行ったところ、星の砂は全く見当たらず、十数分探して、やっと一粒見つけることができるほどでした。

私は指先の一粒の星の砂を見て、感動とは程遠い、悲しさと、虚しさを感じずにはいられませんでした。

150万年かけて出来上がったものが、この20数年で一体何が起こったのでしょううか。

それは紛れもなく、観光客の持ち帰りや、ときには地元観光業者の商材化です。

その島では、1990年代までの観光客数の緩やかな増加に対し、1990年代から劇的に増加しているのがわかります。また、その島の観光PRにも星の砂は大活躍し、SNSでも持ち帰りが想像できる投稿をすぐに見つけることができます。

私たちの中で、浜辺の砂を一握り、いや小さな瓶に持ち帰って、その砂がなくなることを想像できる人はいるでしょうか。

たった一人の行為は、ほとんどインパクトがなくとも、年間約40万人が仮に同じ行為をし、それが20数年繰り返されると、150万年の歴史もあっという間になくなってしまいます。

このダメージのことをアキュミュレイト・エフェクト(累積効果)と言います。自分一人ぐらいはインパクトは問題ないだろうという考えが、同じ考えをもった人により繰り返されることに、いずれは取り返しのつかないダメージになることを言います。

人は、好きなもの、ほしいものを手に入れたいと思うのは、当たり前の衝動です。ただ、そのエゴのみで行動を起こすことによって、自分一人ぐらいという理不尽なロジックによって起こる回復不可能なダメージも知らなければなりません。

山頂の石、真っ赤な染まった紅葉、ビーチの美しい貝殻。全て一見無限にあるようなもでも、実は全て限りある自然です。

「LNT原則4見たものはそのままに」は、そんな知らず知らずのうちに自然に取り返しのつかないダメージを与える行動を、一歩立ち止まらせてくれる原則です。

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